大阪地方裁判所 平成4年(ヨ)4546号
債権者
医療法人X会
右代表者理事長
A
右代理人弁護士
加納雄二
上野勝
水田通治
債務者
Y
右代理人弁護士
中道武美
主文
一 債権者が債務者に対し、債権者に対する本決定送達の日から七日以内に金二〇万円の担保を立てることを条件として、債務者は、別紙物件目録(略)記載の建物内(ただし、別紙図面斜線部分の五階組合事務所を除く。)に立ち入ってはならない。
二 申立費用は債務者の負担とする。
理由
第一事案の概要
本件は、債権者経営の診療所に医事科職員として勤務してきた債務者が、解雇処分を受けた後も右解雇は無効であるとして従前同様就業を継続するのに対し、診療所への立入禁止を求める事案である。なお、債務者は債権者を相手方として右解雇の無効を主張して地位保全及び賃金仮払を求める仮処分命令を申立てている(当庁平成五年(ヨ)第四三二号)。
第二当裁判所の判断
一 争いない事実
1 (当事者)
(一) 債権者は、診療所等を経営することを目的とする医療法人であり、別紙物件目録記載の建物を所有し、右においてa診療所を開設するほか(勤務者計約六〇名)、和歌山県においてb病院を経営している。
(二) 債務者は、昭和五三年二月、債権者の前身であるa診療所に就職し、医療法人化された後も同診療所医事科(医療事務、受付)の職員として就業してきた。
なお、債務者は、全国金属機械労働組合港合同X会支部の組合員である。
2 (解雇の意思表示)
債権者は債務者に対し、平成四年一二月一九日付けで、B理事に対する暴言、C事務長に対する名誉毀損、無許可ビラ貼付、D課長に対する強要を理由として、債務者を懲戒解雇とする旨の意思表示をした。
3 (解雇後の就労闘争)
債務者は解雇の意思表示を受けた後も、債権者からの制止、警告にかかわらず、従前同様就業を続けている。
なお、債務者の勤務時間は、金曜日が全日、その他の平日は午前中の勤務である。
二 保全されるべき権利関係
債権者の申立ては、建物施設管理権を根拠とするが、債務者の抗弁するところは就労請求権に由来する立入権原にあるから、一般的に就労請求権の存否を検討する。
雇傭契約は、労働者が使用者に対して労務に服することを約し使用者がこれにその報酬を与えることを内容とするものであり(民法六二三条)、労務の提供と賃金の支払が対価関係に立つと解されるところ、使用者による労務の受容拒否は受領遅滞となりうるは格別、すすんで労務の受容を強制されるとする法理論的根拠は見出し難く、法的権利としての就労請求権は、これを否定するのが相当である。
この点、労働者は労務の提供により単にその生活の糧を得るにとどまらず、社会の中において自己実現をはかることができ、このような利益を等閑視することはもとより正当でないけれど、労務の提供はすぐれて人的なもので、その受容を法的に強制することは困難というべきである(要するに労務の提供を受けることは権利であって、義務ではなく、これを分り易くいえば、喩えはうまくないが、飲食店で飲食物を注文した場合、提供された飲食物の摂取を強制されないことと基本的に同じであり、かかる市民法原理の適用を修正する労働法規範は見当たらない。仮に就労に特別の利益がある場合に就労請求権を認める見解によるとしても、債権者が就労しないため同僚の労働量が過重となる等の事情は特別の利益には当たらないと考えられる)。
なお、本件において、施設管理権に基づき立入禁止を求めることが施設管理権の濫用と認めるに足りる疎明はない。
したがって、就労請求権を根拠に施設管理権の行使を排除することはできないから、解雇の有効性を問うまでもなく、債権者の申立ては理由がある。
三 保全の必要性
疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、保全の必要性を肯定できる。
四 結論
以上のとおり、債権者の申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。
(山本和人)